大人でもネイティブ並みになれる脳の可塑性

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「英語をマスターするには、子供の頃から始めないと手遅れだ」

そんな言葉を聞いて、学習をためらってしまったことはありませんか? 確かに、言語習得には「臨界期」と呼ばれる、脳が言語を吸収しやすい時期が存在すると言われてきました。

しかし、最新の脳科学は、この常識を塗り替えつつあります。今回のテーマは、大人学習者にとって嬉しい事実「脳の可塑性(かそせい)」です。

目次

1. 大人学習者を苦しめる「臨界期」の真実

英語学習を始める際、「もっと早く始めればよかった」「もう大人だから発音は無理だ」と諦めそうになる原因の一つに、**「臨界期(Critical Period)」**の概念があります。

臨界期とは、一般的に思春期頃までに設定され、「この期間を過ぎると、言語を母語(ネイティブ)レベルで習得することが極端に難しくなる」とする仮説です。

では、この「臨界期」は、私たち大人の英語学習者にとって絶望的な壁なのでしょうか?

脳科学と最新の第二言語習得(SLA)研究は、この問いに対し、「いいえ、大人には大人にしかできない学習の強みがある」という希望を与えてくれます。

臨界期が強く影響する部分と、そうでない部分

臨界期が言語習得に影響を与えるのは事実ですが、その影響は言語のどの要素を指すかによって大きく異なります。

臨界期の影響が強い部分:発音(音韻体系)

多くの研究で、**発音(音の区別や生成)**については、幼少期に言語の音のシステム(音韻体系)が完成してしまうため、大人がネイティブ並みの発音を習得するのが最も難しいとされています。

これは、脳が成長する過程で、母語にない音(例:日本語にはない「R」と「L」の区別)を「不必要な情報」としてフィルタリングする仕組みが出来上がってしまうからです。

臨界期の影響が弱い部分:語彙、文法、理解力

一方で、語彙の習得、複雑な文法の理解、読解力、リスニングでの意味の理解といった分野では、大人が子供に比べて劣るという決定的な証拠はありません。 むしろ、前回の記事で触れた**「メタ認知能力」や、人生経験に裏打ちされた論理的な思考力を持つ大人の方が、文法のルールや単語の意味、使用場面を効率よく、深く理解できる**という強みがあります。

2. 大人学習者の最大の希望:「脳の可塑性」

かつて、脳の成長は成人で止まると信じられていました。しかし現在では、「脳は使えば使うほど、いくつになっても変化し、新しい回路を作る」ことが証明されています。これを脳の可塑性と呼びます。可塑性とは、脳が経験や学習に応じて、神経回路の構造や機能を変化させ続ける能力のことです。この可塑性は、あなたが英語学習に取り組む限り、年齢に関係なく働き続けます。

大人の脳であっても、新しい言語を学ぶという刺激を与え続けることで、神経細胞同士の結びつきが強まり、「英語専用のネットワーク」が物理的に構築されていくのです。あなたが今日、新しい単語を一つ覚えたり、難しい英文法の構造を理解したりする度に、あなたの脳は物理的に変化し、英語専用の回路を強化しているのです。

ポイント: 脳は筋肉と同じ。適切なトレーニング次第で、何歳からでも「英語脳」に鍛え直すことができます。

2. 発音・流暢さの壁を突破する実践的アプローチ

発音という最も難しい壁を突破し、ネイティブのような流暢さを目指すには、子供のような感覚的な学習と、大人ならではの論理的な学習を組み合わせる必要があります。

① 発音は「舌筋の筋トレ」と捉える

発音の壁は、脳のフィルタリングだけでなく、口周りの筋肉(舌筋、口唇筋)が日本語用に固まっていることも原因です。発音学習は、頭で覚える知識ではなく、スポーツの練習や楽器の演奏と同じ**「技能学習」**と捉えましょう。。

訓練法: 鏡を見て口の形をチェックする、ネイティブの音声を徹底的にマネるシャドーイングを毎日数分行うなど、筋肉に新しい動きを覚え込ませる反復練習が効果的です。

② 「自動化」を目指すトレーニング

流暢さとは、ブローカ野から口周りの筋肉への指令が、意識的な思考を介さずに自動で発せられる状態です。

訓練法: 文法や意味を完全に理解した簡単なフレーズを、何度も何度も口に出して練習します。この反復により、英語回路の接続が太く、速くなり、まるで自転車に乗るように「自動化」されます。

まとめ:年齢は「弱み」ではなく「強み」

臨界期の話題に心が折れそうになったら、思い出してください。

  1. 発音以外の語彙・文法・理解力は、大人の論理的な思考力が圧倒的に有利です。
  2. あなたの脳は今も可塑性を持ち、学習するほど物理的に変化し、成長しています。

大切なのは、「子供のように」学ぶことではなく、**「大人ならではの戦略」**で脳を変化させることです。

次回の記事では、具体的に「音」をどう脳に刻むか。、脳の聴覚野にアプローチする具体的なリスニングの科学を解説します。

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[記事5] 英語の「音」が聞き取れないのはなぜ?聴覚野を再構築するリスニングの科学

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